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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第119回『炙りあげうどん』

挿絵  新幹線が新大阪駅に到着したのは夜の8時をまわっていた。
 編集者とは心斎橋のスナックで待ち合わせしている。

 大阪市営地下鉄御堂筋線に乗り換える。
 ホームに入ってきた電車に飛び乗って、ほっとひと息ついた。
 地下鉄とはいっても、車両はしばらく地上を走る。僕は、ネオンの瞬く大阪の街を、もの珍しく眺めていた。
 やがて電車は地下へと入る。車窓が鏡にかわった。車内の様子が映っている。
 それでも僕は気がつかなかった。
 電車が駅に着き、客が乗り降りする。
 それでも僕は気づかないでいた。

 しばらく走っているうちに、
 ――そうだ、久しぶりに訪れた大阪の女人(にょにん)の風情はいかに?
 と思い立って周囲を見まわしてみた。すると、車内は女人ばかりだった。
 ――!
 はっとして、またぐるりとまわりを見渡すと、大阪女性の髪と肩越しに〔女性専用車〕のステッカーが覗いていた。
 すぐさま僕は、「失礼」を繰り返しつつ女性らのあいだを通り抜け、隣の車両へと移った。 
 顔が真っ赤になっていた。
 女性専用車両を振り返ると、数名がこちらを見て、なにやらひそひそと話しているようにも見える。
 顔のほてりがさめないままに、まえを見ると、こんどは〔痴漢は犯罪です〕というステッカーが眼に飛び込んできた。

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