新幹線が新大阪駅に到着したのは夜の8時をまわっていた。
編集者とは心斎橋のスナックで待ち合わせしている。
大阪市営地下鉄御堂筋線に乗り換える。
ホームに入ってきた電車に飛び乗って、ほっとひと息ついた。
地下鉄とはいっても、車両はしばらく地上を走る。僕は、ネオンの瞬く大阪の街を、もの珍しく眺めていた。
やがて電車は地下へと入る。車窓が鏡にかわった。車内の様子が映っている。
それでも僕は気がつかなかった。
電車が駅に着き、客が乗り降りする。
それでも僕は気づかないでいた。
しばらく走っているうちに、
――そうだ、久しぶりに訪れた大阪の女人(にょにん)の風情はいかに?
と思い立って周囲を見まわしてみた。すると、車内は女人ばかりだった。
――!
はっとして、またぐるりとまわりを見渡すと、大阪女性の髪と肩越しに〔女性専用車〕のステッカーが覗いていた。
すぐさま僕は、「失礼」を繰り返しつつ女性らのあいだを通り抜け、隣の車両へと移った。
顔が真っ赤になっていた。
女性専用車両を振り返ると、数名がこちらを見て、なにやらひそひそと話しているようにも見える。
顔のほてりがさめないままに、まえを見ると、こんどは〔痴漢は犯罪です〕というステッカーが眼に飛び込んできた。