『愛は午後』の装丁は多田進氏が、装画は三嶋典東氏が手がけてくださった。
おふたりとも、ずいぶんと力を入れてお仕事をしていただいたと編集の方からうかがった。
装丁の仕事は職人の仕事である。
神田錦町で<装丁の仕事132人展>が催され、そこに『愛は午後』が出品されていると聞き、訪問する。会場の周辺は、高校時代の通学路で、なつかしい気持ちで歩いた。
そのまま神保町駅から地下鉄に乗って、水天宮前まで行く。
人形町にある<うぶけや>という刃物屋で、爪切りを買うのが目的である。
爪は、新聞紙をひろげた上でぱちぱちと切りたいものだ。だから、あのストッパーのついた飛ばない爪切りというのは、なんとなく気分が出ない。だいいち切りにくい。
しかし、飛んだ爪を踏むと痛い、と家内に主張され、よく切れる爪切りを買い求めにきたのだった。<うぶけや>は、老舗のならぶ人形町の町並みのなかでもひときわ古い、しもたやふうのたたずまいで、隣合った建物から両脇を支えられるようにしている。
けれど、往来の喧騒から一歩店内に入ると、磨きたてられたガラスケースに精緻な刃物類のならぶそこは、静謐な別世界だった。
特製爪切り(1200円)を購入し、甘酒横丁をぶらぶら歩く。