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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第82回『讃岐うどんをめぐる冒険(前編)』・・・P2

挿絵 「おまえ、讃岐うどん食ったことあるか?」
 本場の讃岐うどんは、以前からぜひいちど味わってみたかった。しかしながら、根っから非行動的である僕は、実現できないでいたのだ。
「ないよ」
 とこたえると、
「バカじゃねえの」
 とYが言った。Yは、このフレーズを頻繁に使用する。
 Yは、ここ5年余り四国出張のたびごとに讃岐うどんを食べ歩いているという。その法悦を語り、ふたたび僕を誘った。
「瀬戸内を眺めながら〈しまなみ海道〉を渡ることは、まえまえから俺の憧れだったんだ」
 Yが顔に似合わないことを言った。
「憧れねえ。しかし、おまえとふたりで瀬戸内の海を眺めるわけ?」
「バカじゃねえの。おい、行くのか? 行かないのか?」
 それを言うなら、讃岐うどんは僕にとっての憧れだ。行かないはずがないではないか。
 取材が終わり、福山の町をYといっしょに飲み歩き、ホテルにもどって就寝したのは12時過ぎだったが、翌朝は5時半に起きた。「あしたは5時起きで出かけるぞ」とYが言っていたからだ。まごまごしていると、隣の部屋からヤツがきてしまう。
 僕は急いでシャワーを浴び、服を着た。だが、Yはやってこない。それでホテルの内線電話をかける。呼び出し音のあとで、「……もしもし……」というざらついた声が聞こえた。
「なんだ寝てたのか」
「バ……バカじゃねえの……なんだ?」
「きのう、5時に出かけるって言ってたじゃないか」
「冗談にきまってるだろ。バカじゃねえの」
「冗談なら冗談らしく言え」
「バカじゃねえの」
 それでも6時まえにはチェックアウトし、ヤツの運転するレンタカーで出発。間もなく〈しまなみ海道〉に入る。

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