川の流れのように交差する道路と道路のあいだで中州のように取り残された、こんもりとした都心の里山の坂を上ってゆくとその店の入り口がある。
立派な構えの門をくぐると、土塀の内側は別世界のような静寂に満ちていた。石畳のゆるやかな坂を、眼前に屹立する巨大な東京タワーに向かってさらに上る。
坂の頂上に行き着き、左手に折れると庭園に囲まれた朱塗りの日本建築があらわれた。〔東京 芝 とうふ屋うかい〕である。
この店を訪れるとしたら、きっと梅雨時がぴったりなんだろうなと思っていた。いや、夏のせみしぐれも似合うだろうし、なにより冬の雪景色はことのほか素晴らしいにちがいなかった。けれど、それにも増して、僕は、6月のこの時期を選んだのだった。