そんなとき、やはり腰痛に悩む女性と話をする機会があった。その女性が通う美容院の店長には、やはり腰痛に悩む過去があった(腰痛は美容師さんの職業病らしい)。
腰痛女性は、腰痛店長から、よい治療院があることを聞いた。そうして、それを僕に教えてくれた。
その治療院は伊豆長岡にあって、そこで治療を受けると、イッパツで治るという。現に腰痛店長もそこに行って治り、いまは元気で腰痛女性の髪をセットしているという。
腰痛女性は、僕が行って効果があれば、彼女も行くから、ぜひ試してみろとすすめる。
ワラにもすがりたい僕は、行ってみることにした。
伊豆長岡は温泉地である。どーせなら、と、夫婦で行くことにして温泉旅行とシャレ込んだ。たとえわざわざ出かけて行って治療に効果がなくても、1泊旅行したのだ、と考えればあきらめもつくというものだ。
東京駅から伊豆長岡への直通電車は、平日は特急踊り子号が午前と午後に1本ずつあるきりである。あとは、三島まで新幹線で行って伊豆箱根鉄道駿豆(すんず)線に乗り換える方法がある。
僕らは9時ちょうど発の踊り子号で行くことにした。平日朝の東京駅はビジネスマンでごった返しているが、踊り子号のホームだけは、年配の男女の姿がぱらぱら見受けられるだけで、まったりとした空気がただよっていた。
そういう僕ら夫婦も、駅弁の袋をぶらさげていて、完全に温泉旅行モードである。
踊り子号が発車すると同時に、僕らは駅弁の包みをかさかさと開けた。妻は「鮭いくら寿司」(1200エン)、僕は「深川めし」(850エン)である。アサリのむき身を炊き込んだ深川飯、ハゼの甘露煮、アナゴの蒲焼きと、内容がすべて江戸前ふうなのがそれっぽくて、東京駅で駅弁を買うときには僕はたいてい「深川めし」である。それに、1000エン以上出して豪華な駅弁を買う気になれない。その点、妻はシロウトである。
僕はシロウトの妻から「鮭いくら寿司」を取り上げると、あらかた食べた。かわりに「深川めし」の残りを与えた。
伊豆長岡まで約2時間。本を読んだりして、のんびりと過ごす。妻はキオスクで文庫本の『ダ・ヴィンチ・コード』の下巻だけを買い、このあいだ観た映画と原作の内容のちがいを点検していた。
