これにはいささかびびった。ニューヨーク・ヤンキースのコリー・ライドル投手が乗った小型飛行機がマンハッタンの高層マンションに衝突したニュースが伝えられたばかりだったからだ。
僕は神妙な顔でぽつりと、「きょう、久し振りに実家に電話したんだよね」と言った。
まえまえから父に銀座でステーキを食べるのにつきあえと言われていて、僕は今朝、出掛けに、待ち合わせの日時を伝える電話をしていたのだ。
「これって、虫の知らせってコトかな」
「ちょっとー、いやなこと言わないでくださいよ」とアッコさん。
そういえば、きょうは13日の金曜日である。
アッコさんのケイタイが鳴る。カメラマンのKさんからだった。いまいる場所を彼に伝え、合流すると、昼食の“空弁”を各々買い込み熊本行きの飛行機に乗り込んだ。
機内では、僕は浅草今半製のメンチカツサンドを食べながら、Kさんとずっとおしゃべりしていた。Kさんは“鉄ちゃん”である。少年時代に趣味で鉄道写真を撮るところからはじまって、構図に凝ってるうちに、風景から列車がなくなってもいいじゃないかと思うようになり、写真に本腰を入れるようになったのだという。趣味が高じていつの間にか職業カメラマンになったのだ。
熊本空港に着くと、ものすごいリムジンが僕らを出迎えた。
スモークガラスの後部ドアが開き、サングラスをかけたちょい不良(ワル)オヤジが降り立った。このTさんが、きょうの取材の相手である。
つづいて助手席側のドアが開いて、もうひとりサングラス姿の男性があらわれた。ちょい不良オヤジ2号である。このひとがリムジンの所有者で、Tさんの友だちだという。
こんどは運転席側からもうひとり――この男性はサングラスをかけていない。しかし、その強面は、ちょい不良オヤジどころか、ホンモノである。どう見てもそのスジのお方。このひともTさんのお友だちで、きょうはドライバー役とのこと。
僕も彼らに倣ってブレザーの胸ポケットからセルフレームのレイバンを取り出してかけた。ちょい不良オヤジ3号。
ちょい不良オヤジ1号・2号とホンモノが、ちょい不良オヤジ3号の僕を歓待し、スモークガラスのリムジンへと招じ入れる。それは、カタギの衆は眼を背けたくなるような光景にちがいなかった。
日本に1台しかないというキャデラックのリムジンは、周囲の人々がかもし出す関わり合いになりたくないという空気を蹴散らせ、長い長い車体を発進させた。
