キャデラックリムジンは、Tさんと僕ら取材チームを熊本空港の裏側にある町工場のようなちいさな航空会社のまえで降ろした。
小型単発機の総称のように言われる“セスナ”とは、本来は米セスナ社製の軽飛行機をさす。そうして、いま格納庫からあらわれたのは正真正銘のセスナである。そのなかでも空前のベストセラーとなったのがこの172型スカイホークであるという。まさに、この機種によって“セスナ”は小型飛行機の代名詞になったわけだ。
胴体の上部に翼があるセスナの機内からは、下界がよく見渡せるはずだ。僕は軽く武者震いした。
セスナのまえでTさんにポーズをとってもらい、Kさんがそれを撮影し、いよいよ搭乗する。
4人乗りで、後部席にKさんと僕が、機長の証しである左操縦席にはTさんが、右側には航空会社の教官が乗った。
まるでスタジオジブリの作品にでも登場しそうな、顔全体がヒゲに埋(うず)もれた、やさしげな眼をした整備士さんが、晴れ渡った秋空に高く響くように、「コンタクト!」と叫ぶと、Tさんはプロペラの回転を開始した。
整備士さんが微笑んで、「よいフライトを」というように右手を軽く上げた。その隣でアッコさんが笑顔で僕らに手を振っている。
Tさんは、セスナを熊本空港の滑走路に向けてゆっくりと走らせた。その間、教官は、管制塔と英語まじりに交信をとり、離陸許可を得ている。
ピーク時らしく、滑走路には巨大な旅客機がつぎつぎと発着している。しばらく順番待ちをした後、Tさんはセスナを進入灯の輝く滑走路に乗り入れた。
「じゃ、行きます」Tさんが、後部にいる僕とKさんに一言かけた。
「……お、お願いします」僕は言った。
すこし気になることがあった。Tさんは、時々、なにやらメモを眺めつつ機械の操作をしているのだ。
「なにしろ3年ぶりなものだから、ちょっと忘れてるところもあってね」Tさんがぼそりとひとりごとを言った。
「!」
セスナのプロペラはぶるぶると激しく回転を増し、滑走路をなめらかにすべると、ふわりと熊本の大空へと舞い上がった。
