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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第108回『動物園バックヤードツアー』

挿絵  差し出された象の牙は、あたりまえの話だけれど象牙(ぞうげ)の感触と重みがあった。あたりまえの話だけれど。
 でも、それは置物ではなく、あくまでぽきりと折れた純粋な象の牙なのだった。
 牙を手渡されたのは〈よこはま動物園ズーラシア〉の象の放飼場のまえ。手渡された相手は、動物園のガイドさんだった。

 きょうはバックヤードツアーに参加したのである。
 この牙は、オスのインドゾウ・ラスクマル(インドの言葉で“王子さま”の意)が、遊んでいるうちに折ってしまったものらしい。 
 ちなみに牙を持つのはオスだけで、メスには痕跡のようなものがあるだけで牙はないそうだ。
 
 放飼場にはオス1頭、メス2頭(チャメリーとシェリー)の象がのんびりと長い鼻を揺らせている。
 オスとメスのあいだには深い溝があって、自由には行き来できないようになっている。しかるべきタイミングでいっしょにさせるのだということだった。
 男と女のあいだには深い溝があるのだ。うん。

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