差し出された象の牙は、あたりまえの話だけれど象牙(ぞうげ)の感触と重みがあった。あたりまえの話だけれど。
でも、それは置物ではなく、あくまでぽきりと折れた純粋な象の牙なのだった。
牙を手渡されたのは〈よこはま動物園ズーラシア〉の象の放飼場のまえ。手渡された相手は、動物園のガイドさんだった。
きょうはバックヤードツアーに参加したのである。
この牙は、オスのインドゾウ・ラスクマル(インドの言葉で“王子さま”の意)が、遊んでいるうちに折ってしまったものらしい。
ちなみに牙を持つのはオスだけで、メスには痕跡のようなものがあるだけで牙はないそうだ。
放飼場にはオス1頭、メス2頭(チャメリーとシェリー)の象がのんびりと長い鼻を揺らせている。
オスとメスのあいだには深い溝があって、自由には行き来できないようになっている。しかるべきタイミングでいっしょにさせるのだということだった。
男と女のあいだには深い溝があるのだ。うん。