飯倉片町で生まれ育ち、いまも乃木坂に暮らす女性に、六本木のディープな隠れ家的なお店に案内していただく。
そこで、われわれ一行は辛口の白の瓶を人数分だけあけ、うまい料理に舌鼓を打った。
一見では、まずたどり着けない店である。
きらびやかな通りから薄暗い路地に入り、木造の古い家並みのまえを抜けてくる。
こうした店でしたたかに沈没していると、仲間といっしょに飲んでいるのにもかかわらず、いつの間にかひとりでいるような気分になってきて、そうして“内側”にいることを強く意識する。
なんというのだろうか、夏目漱石の『硝子戸の中(うち)』で描かれている「小さい私と広い世の中とを隔離しているこの硝子戸の中」とでもいった感じだ。
六本木という繁華街を近くに意識しながら、そことはガラス戸1枚を隔ててこうした静かな店のなかにいる、といった気分が濃厚になるのだ。