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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第111回『アジサイ日和』

挿絵  どんよりとした空。白く煙ったような空気。好天とはいえない。しかし、これこそが絶好のアジサイ日和なのだった。
 梅雨の一日、群馬県・渋川にある〈小野池あじさい公園〉にきていた。
 園内には約20種、8000株のあじさいが咲き誇る。――と、書いたが、“咲き誇る”という言葉がふさわしくないのが、このアジサイである。

 たとえ大玉のような花であっても、どこか日陰の身なのである。そこはそれ、やはりこうした天候のアジサイ日和が、この花の魅力をいっそう際立たせるというものだ。
 淡空色、青紫色、淡紅色、すべてにあわあわとした色合いの花が、グラデーションのように湿気をふくんだ空気におぼろにとけている。
 
 これだけ大きな花なのに、香りがしないのもまたアジサイだ。
 しかし、今朝方までの雨で、あたりには緑と土の濃密なにおいが満ちている。それをいっぱいに吸い込んだら、「▲※@#∞???」中年女性が過剰な香水臭を放ちつつ脇を擦り抜けてゆき、眼が白黒した。カンベンして……。

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