宿根木(しゅくねぎ)は、ちいさな入江に船大工の手による民家が建ちならぶ町並み保存地区である。
それまで車窓から眺めていた雪と塩に強いという黒い能登瓦が多くを占めていた家々とはちがい、日本の原風景とでもいった姿をとどめている。
どこからか『遠くへ行きたい』のメロディーが流れてきそうである。寄り添うように建った家々のあいだを狭い路地と水路が走っている。水路にはきれいな水が流れ、小魚が泳いでいた。まるで映画のセットのようだ。ほんとにせまい路地で、通り抜けるとき、軒先に咲いていたオニユリの花粉でポロシャツの背中を汚してしまった(そうして、このユリの花粉というのがしつこくてなかなか落ちないのである)。
どの玄関口にも「庄司」とか「松平」とか屋号が出ているのは、この集落に「石塚」という姓が多いから、とか。
ぶらぶら歩いていると、町の奥にある神社に行き着く。この神社にはキツネではなく、タヌキのはく製が安置されていた。これは、佐渡にはキツネがいないためだというが、はたして?
拉致事件の現場となった国府川、真野湾を望む観光ホテルで昼食。ここでも、イカソウメンと南蛮エビ(甘エビ)の刺身とイゴネリが出る。お味噌汁の具は当然のようにナガモ。焼き魚はタラもどきのメロの西京焼きだった。
大佐渡スカイラインをドライブして尖閣湾(せんかくわん)へと向う。雲ひとつない晴天で、山上からは、左右を真野湾と両津湾が大きくえぐり込む佐渡ヶ島のくびれの部分がよく見渡せた。
さて、尖閣湾であるが、映画『君の名は』の舞台としてつとに有名であるとのこと。レストハウスには岸惠子演じる氏家真知子と佐田啓二扮する後宮春樹の古いスチール写真が飾られている。
ヴィヴィアン・リー、ロバート・テイラー主演の米映画『哀愁』を翻案した菊田一夫の原作ラジオドラマが放送された当時は銭湯の女湯がからっぽになったということである。『哀愁』は観ているけれど、残念ながら『君の名は』は未見のウエノには尖閣湾が物語のどこで舞台になるかは不明である。
しかし断崖絶壁と海のコントラストの美しさは、いささかベタなまでにクライマックスをあおるだろうことは想像に難くない。
グラスボートに乗って海中透視をたのしむ。ワカメ、テングサといった海藻の森からクロダイやイサキがあらわれるのは壮観だった。と、同時に、この海藻の豊富さから、毎度のように食卓にのぼるイゴネリやナガモに納得したものだ。
