その晩は夕日が沈むオーシャンビューが売りものの観光ホテルの特別室に宿泊。残念ながら、雲がかかり夕陽が水平線に溶ける瞬間を目撃することはかなわなかった。それでも付属のプライベート露天風呂から眺める海上の月はそこはかとなく幽玄であった。
夕食は特室付属のダイニングルームで会席料理をたのしむ。お酒はきのう両津の造り酒屋で仕入れた大吟醸を開けた。
ところで、食事の世話係の女性にきいて、佐渡では体表が黒いことからアオリイカをスミイカと呼ぶことを知り、さきほどのたらい舟の一件について納得したしだいである。ちなみに、この日の夕食にメバルのまるごとの唐揚げが出たのだけれど、佐渡ではメバルをハチメというそうだ。
食後はマッサージチェアに沈み、グラスのカティーサークをなめつつ液晶ハイビジョンワイドテレビで北京オリンピックの開会式を眺める。
・最終日
連日のご馳走でいささか食傷気味である。朝食はメカブの雑炊にシジミ汁、サンマの味りん干しですませる。
さて最終日は、佐渡観光の花形、金山へと向う。
江戸時代、金鉱脈をどこまでも掘り進んだ結果、山の頂上中央がぱっくりと割れてしまった「道遊の割戸」は、佐渡金山のシンボルであると同時に人間の欲望の象徴である。
なんでも坑道の総延長は400キロに及び、これは佐渡−東京間の距離に相当するとか。観光ルートの坑道には江戸時代の採掘風景を再現した電動人形が配置されている。人形はあったほうがいいのか? いや、なくても……うーん、やっぱりあったほうがいいか。
高速観光船に乗って外海府をクルーズする。きのうグラスボートに乗った(そういえばこの旅はよく船に乗っている)尖閣湾から連続して一帯には無数の奇岩が屹立している。
観光船にはふだんはたらい舟の船頭をしているというガイドさんが、船頭の扮装そのままに乗船していて、海岸線の景勝を一生懸命に説明してくれる。
下船して大野亀という巨大な一枚岩の近くにあるホテルで海鮮丼の昼食。
このあとは両津港に向かい、そこからふたたびジェットフォイルに乗船して帰路につくばかりである。
海鮮丼には、しっかりイカと南蛮エビがのっていた。島で最後のナガモの味噌汁を味わいつつ、先ほどのたらい舟の船頭ガイドさんの、「波風おだやかに、無事のお帰りをお祈りいたしております」という乗船客に向けての別れの言葉をかみしめていた。
さらば佐渡ヶ島よ。機会あればまた他日。
(『佐渡』−完−)
