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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第137回 伊丹十三記念館・・・P2

挿絵  記念館のエントランスアプローチ脇にある車庫には、氏の最後の愛車、黒塗りのベントレーが格納されており、これが最初に眼にする展示品ということになる。ここまでは出入り自由だから、タダで見ることができるわけだ。
 さて、受付で入場料(大人800円)を払うと、案内の女性に館内見取り図と小冊子を渡され、見学の仕方のようなことをレクチャーされる。すなわち、氏の名にちなんで常設展示室が13のコーナーに分かれていること。各コーナーの展示棚には引き出しがあり、ぜひそのなかにある展示品も見ていってほしいといったことである。渡された小冊子は展示品リストで、個々のいわれが記されているようだ。

 13のコーナーでは、商業デザイナー、エッセイスト、イラストレーター、CM作家など、氏のさまざまな顔を紹介している。
 僕がここを訪れた動機の大部分は、映画監督としての氏の仕事に魅了されてのことだが、俳優としてもファンであった。
 最初に氏を強く認識したのは、70年代にNHKの土曜ドラマのワクで放映された『死にたがる子』だ。後年、BSで再放送された際にVHSで録画し、僕のお宝ビデオになっている。
 このドラマで、氏は主役の新聞記者を演じている。少年の自殺というテーマで組まれた特集記事の取材を遂行する彼の姿を追って物語は展開するのだが、例のかったるいような、斜に構えたような、偏屈なような独特の台詞まわしと演技が、テレビドラマ特有のヒロイックな熱血記者像とは一線を画していて、初放映時ひねくれまくっていた高校生の僕は惹かれた。
 土曜ドラマでは、サスペンスドラマシリーズというくくりの1作であったが、全体にホームドラマの色調が濃い。端緒となる少年の自殺事件が伊丹記者の自宅近所で発生していること(それで彼は特集記事の担当になる)、主人公の家庭の場面が多く描かれていること(妻役を、なんと伊丹夫人の宮本信子が演じていて、夫は彼女に、「早く明太出してヨ」なんて言ったりする)、また、テーマ曲が、教育番組の学園ドラマを想起させるようなどこかのどかといっていい旋律であること、などからだ。 
 記者の人物造形には氏のアイディアが多く取り入れられていることはほぼまちがいないだろう。衣装も、臙脂(えんじ)の替え上着に、チェックのボタンダウンシャツ、臙脂のニットタイというコーディネート(後年、吉行淳之介原作の映画『夕暮れまで』〈’80年〉でも、おなじような服装で主人公の小説家を演じている)や、セーターの上に半てんを羽織って近所の居酒屋に出かけてみたりというところに、氏の好みが反映されている。

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