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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第139回 三陸(中編) 陸中〜古牧温泉・・・P3

挿絵  青森県の八戸にやってきた。
 はじめて、この地名を知ったのは小学生のころだった。’70年代に放送されたNHKの朝のテレビ小説『北の家族』の舞台となったためで、「へ」というその語感から、日本にはおもしろい名前の場所があるものだと思ったものだ。

 ウミネコの繁殖地として天然記念物に指定されている蕪島(かぶしま)の、蕪嶋神社(神社名は「嶋」と表記)をお参りする。商売繁盛にご利益があるという。個人経営のウエノとしては一心に手を合わせた。拝殿に向かって祈願した後、ちいさな島を3度めぐるという参詣の仕方は、周囲の景色のよさを見せようという趣向なのかもしれない。
 繁殖期には無数のウミネコが飛来するというこの島も、いまは越冬する数羽を残してひっそりとしている。

 きょうは16時過ぎと、早めに宿に到着する。
 古牧温泉の源泉を掘り当て、観光開発したのは、渋沢栄一に仕えた方とかで、広いホテルの庭園の一角には、東京港区から移築された渋沢邸(栄一の孫、敬三の自邸)が移築されており、洋館好きのウエノとしては当然のこと見学に行く。
 東京北区の飛鳥山公園に、渋沢栄一ゆかりの山小屋ふうの建物、晩香廬(ばんこうろ)があるが、これをモチーフにしたパーティールームの向かい側に、渋沢邸はあった。
 応接用の洋館と、住居用の和館の折衷からなる建物は、ひとけのない公園内で、そろそろ色づきはじめた木々に囲まれてたいそう美しかった。日本館の縁側の一部には、タイルを張った二重窓のウインターガーデンがあって興味深い。
 庭園の空気が、どこまでも冷たく澄んでいる。静かだった。
 息をひそめるようにして、屋敷の周囲をぐるりとまわり、その余韻を抱えたままホテルにもどって温泉に浸かる。
 さながら広い池に浮かんでいるようにつくられた露天風呂は、これまで入湯したなかでも屈指であった。ちょんまりした風呂ではない。大きな風呂だ。それが池のなかにまでせり出していて、風呂のへり近くにまで錦鯉が泳ぎよってくるのだ。温泉もとろりとして、いかにも効用がありそうだ。
 庭園の滝を眺めながら、深く深くため息をつく。本州のさいはての町にいるのだという思いがせまってくる。
 さらに部屋はトレインビューで、貨物を含め東北本線を走る車両のバラエティーを森を背景に鑑賞できた。

―またまたつづく―

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