寒さきびしい頃、雪国に行ってあたたかい温泉に浸かる。
……なにもわざわざ、という行いのようにも、それゆえにこそ温泉のありがたみがいっそう身に染みる、念の入った幸せ行為のようにも思える。
暦のうえでは春とはいえ、豪雪がつづく2月の山形に、温泉めぐりの旅に出た。
・1日め
新潟駅で上越新幹線MAXときから、12時34分発の特急いなほに乗り継いだ。白新線・羽越本線を経由して温海(あつみ)温泉へと向かう。
車中で弁当をつかった。駅弁〈SLばんえつ物語弁当〉である。4〜11月の休日を中心に新潟―会津若松駅間を1日1往復する蒸気機関車〈SLばんえつ物語〉のイラストが描かれた掛け紙をはずすと、茶飯の上に、鶏の照り焼き、かまぼこ(赤くトキの絵が描かれている)、ニシン、ホタテ貝柱などがのり、煮物が添えられたのが現れた。
薄っすらと雪化粧した町を眺めながら、シイタケの煮しめをつまむ。団地の棟ごとに「けやき」とか「あかまつ」という名前がついているのが雰囲気だった。
アルミのちいさなカップに入ったはらこの醤油漬けをご飯にかけ、焼いたサケといっしょに親子丼ふうにして口に運ぶ。漬物がしょっぱいのが北国らしかった。