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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第145回 生地(いくじ)のトラ

挿絵  砺波(となみ)チューリップ公園で450品種、100万本といわれるチューリップが、いまを盛りと鮮やかに咲き誇るさまを堪能し、富山市内の観光ホテルに到着した。
 浴衣に着替え、さて温泉へと思ったら、窓辺に置かれた籐椅子の前のテーブル上のケイタイが震えた。名古屋のGさんからの電話だった。ここ数年とりかかっている小説の取材でお世話になっている、合成樹脂加工工場の社長である。

 ギターの名手であるGさんはいま東京にいて、明日開かれる知人の結婚式の披露宴で余興にバンド演奏するのだという。で、その練習のまえに、自ら腕を振るってカレーライスをバンド仲間に振る舞おうと準備中らしい。
 Gさんとは、工場見学でマニラを旅した際、カレーづくりについて語り合ったことがあった。きょうの電話は、その時に僕が言った、チョコレートを隠し味にするということについてで、「どれくらい入れるの?」との質問だった。「ひとかけです」と僕はこたえ、当方もGさんからアドバイスいただいた、すり卸しニンジンを加えるのを実践している旨を伝えた。そう、じつは先週末もこれをして、セラミック製の卸し器で親指をケガしてしまったのだった。だいぶ治ってきているのだけれど。

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