月 い ち エ ッ セ イ / 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

・１日め
　開高健は、あとで写真を見た時に、どんな帽子をかぶっているかで、どこに出かけた旅であるかがわかると書いていた。山口瞳は、自分の帽子はけっしてハゲ隠しではない、帽子をかぶりたくて旅に出るのだと書いていた。
　この夏、函館・小樽・札幌をめぐる北海道三都旅行に僕が選んだのは、黒澤明が『乱』の撮影中にかぶっていたのとおなじタイプの、つばの上に白い飾りひものあるデニムのマリンキャップである。

　グリーン車を奮発した東北新幹線はやてを青森県・八戸駅で下車し（途中、車両基地で、来年３月にデビューする新型新幹線Ｅ５系はやぶさをはじめて肉眼で確認した）、特急「白鳥（はくちょう）」に乗り換える。
　ことしのゴールデンウィーク明け、札幌に日帰り仕事で出かけ（それが、なんと僕の記念すべき北海道初上陸であった）、こんどは北海道をゆっくり満喫するぞと誓ったのだ。
　だから、ジェット機でひとっ飛びするのではなくて、電車旅を選んだ。ちなみに復路は寝台特急カシオペアを利用することになっている。