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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第154回 食卓日記(16)
〜フランス人といっしょにフランス料理を味わうこととコンビニおむすびの巻〜・・・P2

挿絵 *月*日
 日帰りの仕事で長崎に行く。
 ここ数日、東京もそうだけれど、長崎も暖かい。
 年末の大分・熊本旅行で知ったことだが、空港から市内へと向かうリムジンバスの車窓から見つけた墓石の法名が、ここでも金文字である。九州特有の習俗なり。
 
 旅先では、一食はご当地名産を味わうようにしていて、この日は帰りの飛行機の時間を待つあいだに空港レストランで長崎皿うどんを食べる。残念ながら、あまり感心しなかった。
 帰宅し、風呂に入って深夜、ウイスキーの水割り。スコットランドの酒を甲州の水で割って飲むのだが、あわただしい1日も、この瞬間に落ち着きをとりもどす。

*月*日
 文章講座を開講している文化カレッジの講師の集い(もとは女性講師だけのパーティーだったことから“魔女の会”と呼ばれている)があって、代官山へ。
 朝倉家住宅を見るために30分ほど早く着くように出かけた。ヒルサイドテラスの一角に残る重要文化財の個人住宅である。というか、ヒルサイドテラスは、この朝倉家の土地につくられたものである。
 玄関横にある洋間をのぞいてすべてが日本間の邸宅の、その広さに驚く。崖線につくられた回遊式庭園は、めかしこんでカラス仕上げ(靴底が黒く塗装されている)のストレートチップをはいてきたので建物内からのみの見学とした

 魔女の会が行われたのはミシュランの1つ★のフランス料理店。店内では暖炉で薪が焚かれていた。
 隣に座ったフランス語とスカーフの結び方の講師であるフランス人女性のNさんが、お店の方(こちらはフランス人と日本人のハーフ)に、〔本日のオードブル〕の内容をフランス語できいていた。
 僕は思わずNさんに、「フランス語を話せるんですね」と言った。だって、Nさんがフランス語を話しているのをはじめて見たから。
 メインは、「このお店にきたらカスレを食べなくては」とNさんにすすめられ、いっしょに会に参加していたふじた画伯と2人前をシェアする。
 カスレとは、肉、ソーセージと白インゲンマメの煮込みである。スペイン寄りの地方の郷土料理とかで、かくやといった素朴な風情である。

 辛口のシャンパンを飲みつつ、オードブルのキジ肉のテリーヌのゼリーよせを食べつつ、おなじお皿を味わっているNさんをそっと観察する。フランス人がフランス料理を食べる姿は、さすがに堂に入っている。
 僕が、美しく盛られた添え物を、かたちを崩さずにそのままフォークですくって口に運んでいるのに対して、彼女はフォークの先でちょちょいと崩してしまう。それが、なんとも自然で、優雅で、これは、言ってみれば、日本人がお茶漬けをさらさら食べている姿に通じるものなのだろう。
 
 帰宅して、夕食はロールキャベツ、ポテトサラダ、自家製の米粉(こめこ)パン。
 ミシュランの★付きレストランももちろんけっこうであるが、気が置けない我が家の洋食にも★を冠したい。

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