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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第162回 日帰りバスツアー(8) 〜戸隠そば祭り・前編〜・・・P2

挿絵

 観光バスは、まず、戸隠神社の中社(ちゅうしゃ)前で、ほぼ全員に近い参加者を下ろした。
 ここは町の中心部で、おそば屋さんも軒を連ねており、容易に食べ歩きが楽しめる。
 中心部には、僕と妻が入ってみたいと思っていた2店舗があった。戸隠そば苑とうずら家である。しかし、このうち、戸隠そば苑は定休日に当たっていた。一方のうずら家は行列店として名高い。そうして僕は性格上、飲食店の行列に連なることを潔しとしないのだった。
 こうなると、必然的に町の別の部分を攻めることとなる。
 戸隠そばマップを、『七人の侍』で志村喬が演じていたリーダーの侍・勘兵衛のように厳しい視線で見つめていた妻が決断した。
「大久保に行きましょう」
 大久保は地域の南のはずれで、そこにはあらかじめ当たりをつけていた、大久保の茶屋がある。
「では、北にある1店、そばの実は?」
 と、稲葉義男演じる参謀役・五郎兵衛のように僕が訊くと、
「そこまでは回りきれない。あきらめるより仕方ないわね」
 妻が苦渋に満ちた表情で言った。さらに、
「大久保の茶屋に行って、中社に戻る途中、紅葉とよつかどを制覇するの。1店を捨てて、3店を選ぶのよ」
 彼女は策士だった。

 観光バスは中社をあとにし、希望者を乗せて大久保へと向かう。そうしてバスには、下車したほぼ全員に近い客以外の、そう、僕ら夫婦だけが残っていた。
 大久保までの道のりは、けっこうあった。バスに乗っていて、5分、10分と経つなかで僕の顔色は徐々に青ざめていった。160分後の集合場所は、先ほどの中社前のバス駐車場である。「時間内に引き返すことができるのだろうか……」
 途中、入ろうと思っている2店舗、紅葉とよつかどのある地域を通り過ぎる。大久保の茶屋をあきらめ、「ここで下ろしてください!」と言う手もあった。だが、僕らはあくまでチャレンジャーだった。

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