若く利発そうな女性添乗員さんが、1時間に2本ある路線バスの時間を僕らに告げると、心配そうな顔で再び観光バスに乗り込んだ。
「やっぱり乗せてってください!」僕はそう声に出しそうになるのを必死に堪えた。そして、涙ぐみながら去って行くバスを見送った。
大久保の茶屋に入っても、まだプレッシャーを感じていたのか、電気屋さんとか商工会議所とか、そんな作業着ふうの制服を着た男性をお店の人と間違えて、僕はいきなり半ざるを注文してしまった。
しかし、地元の方らしいその男性は少しも慌てることなく、お店の奥に声をかけてくれた。
窓越しに店の前の柿の木がはらはらと落ち葉を散らせるのを眺めつつ、お茶と一緒に出された黄色いたくあんをつまみ、信州の晩秋の気配に身を浸しているうち、僕の中の戸惑いは消えていった。
やがて現れたのは、キリっとした、少し太めの、玄そばも挽き込んでいるのだろうか、黒見がかったそばだった。ざるの上で、戸隠特有のぼっち盛りにされている。半ざるは、馬蹄型のそばが3ぼっち(束)である。
つゆはあっさり目で、そこにそばをじゃぶりと浸けてすする。
最初はそばつゆだけで、途中からネギとわさびを加え、そばを楽しむ。
ちゃっちゃと食べて、そばちょこに、そば湯をそそいで1杯。椅子が温(ぬく)まる暇もなく1軒目をあとにする。これぞ、そばっ食いの江戸っ子の所作。
これを、このあと4軒も繰り返すのか! 極楽!!
