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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第163回『日帰りバスツアー(8)〜戸隠そば祭り後編〜』

挿絵  だが、次の極楽浄土へと至る道のりの長かったこと。林を切り裂いて走る真っすぐなアスファルト道を、どこまで歩いても、歩いても、景色が変わらなかった。建物が何もないので、地図上に目安となるものがまったく見つからない。
 時々、行き過ぎる自動車のドライバーが、このふたりは、どうしてこんなところを歩いているのだろう? といった不思議そうな表情を浮かべていた。
 交通標識もいっさいなく、20分ほど歩いたところで現れた「地場野菜販売所まで300メートル」という看板が久し振りに眼にした文字だった。
 そうして、その「300メートル」を歩いたところの「地場野菜販売所」では、大きくて瑞々しい白菜をゴロンと売っているのに眼を惹きつけられた。しかし、だからといって、そんなものをブラ下げては、この行程をさらに過酷なものにしてしまう。
 先を急いでいると、まただいぶ歩いた頃に、ふたたび地場野菜販売所の看板が出現(多い!)して、やはり「300メートル」のところにあるのだという。ところが実際に歩いてみると、今度の「300メートル」の距離感が、先ほどの「300メートル」と明らかに違っている。そうした、地元の方の距離に対するツカミの甘さというか、大らかさが、当てなく歩いている者をひどく不安にさせた。

 口の中に残っていた薬味のネギの味はいつの間にか消えていた。ネギの残り香が、「早く次のそばを」と僕を駆り立てていたのに……
 僕はそば好きであり、ネギ好きでもある。以前、会津の山間にある茅葺き屋根の宿場町、大内宿で名物の高遠そばというのを食べた。おわんに盛られたかけそばを、太い長ネギ1本を箸代わりにして食べる。僕は、このネギを薬味代わりに、ほとんどかじりつくしてしまった。

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