さて、妻と並んで長い道を歩いていて、徒然(つれづれ)に僕の着ているジャンパーの話になった。それは、亡くなった父の形見なのだが、たしか生前いちども袖を通したことがなかったんじゃないかと思う。そこで、旅行好きだった父の供養に「着てやっているんだ」とうそぶいたところ、ファスナーの調子が悪くなってしまった。歩いていて暑くなったので、脱ごうとしてもファスナーが下りないのだ(父が怒った!)。
どうしても脱げないままに、やっとのこと到着した2軒目の紅葉は、店内でストーブを炊いていた。僕の額から汗が噴き出す。
妻にファスナーを直してもらって、やっとのことジャンパーを脱ぎ、そば茶をすすった。今度のお茶請けは野沢菜漬け(長野!)である。僕は野沢菜漬けが大好きなのだが、これが浅漬かりでうまかった。
高台にある眺めのよい山小屋ふうの店で、店名のとおり秋の陽射しの中で色づいた山の木々の紅葉が見渡せる。ようやく人心地つく。
ここのおそばは、少し柔らかめで、白っぽいおそばだった。大久保の茶屋が男性ふうだとしたら、紅葉は女性ふうの優しいそばということになる。
つゆはかつおの風味が強い。
薬味も、大久保の茶屋では小口に切っていた長ネギが、紅葉はみじん切りである。
3軒目のよつかどは、紅葉から5分もかからないところにあった。名前のとおり、四つ角に建つお店である。
ガラガラと引き戸を開けると、たたきに聖護院大根が無造作に転がされ、売られていた。中に入ると、これまで入ったどのお店よりも賑わっていて、テーブル席に相席となる。
ここでは、そば茶と一緒に、ちょい甘めの薄切りにしたたくあんが出た。お店の人に訊いたら、やはり聖護院大根だった。