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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第172回『琵琶湖(後編)』

挿絵

・2日目(つづき)
 大津市の坂本は、処々に石積みが見られる門前町である。ここからケーブルカーで上ると延暦寺だ。
 団体で乗るケーブルの時間まで町の自由散策タイムになる。
 苔むした石垣が街路を成し、比叡山の隠居した僧侶が住む里坊や、古い庭園へと至る洞窟の入り口があったりする。
 路地を入ると、地元の年輩の女性が庭に咲いているハナイカダを見せてくれた。なるほど、葉の真ん中に葉よりも少し色の淡い緑の花を載せた姿は筏(いかだ)のようである。庭にある水琴窟(すいきんくつ)から、冷たく澄んだ音が聞こえていた。

 昭和2年開業当時の建物であるというケーブル坂本の駅舎に、ウエノはまず惹かれる。
 そこからケーブルカーで10分強で霊峰比叡山である。
 比叡山は、東塔・西塔・横川の三塔と呼ばれる地域に分けられ、これを総称して比叡山延暦寺という。単独の延暦寺という寺はない。
 この日は、総本堂の根本中堂を訪ねた。
 コンポンチュウドウという語感からは、『巨人の星』的な修行性、スポ根性が感じられる。すなわち、座禅して、邪念や眠気に襲われると棒でバンバン叩かれるようなイメージである。
 しかし、実際に訪れたそこは、特別信仰心のない僕でも心安らぐ静謐の場だった。
 お坊さんのお話を聞いているうちに、大きな扉が開け放たれた外で雨が降りだした。激しい雷鳴と向こうが見えないほどの豪雨である。しかし、それが、堂内の静けさをいっそう引き立てるのだ。それは、さながら世俗と隔絶させるように。

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