さて、バスの窓外には、切り通しの雪の回廊が続いている。この白い壁が高いのだ。立山黒部アルペンルートで歩いた「雪の大谷」よりもさらに高い。
八甲田を下りると、お昼はホタテの貝焼(かや)きを味わう。ホタテの大きな貝殻に、ホタテの稚貝や野菜、シメジを載せて味噌で焼き、そこに卵を落とし、和えながら食べるのだ。
映画『八甲田山』では、遭難した青森連隊に対して高倉健率いる弘前連隊は、案内人を雇い、少数精鋭を組織して順調に行軍を終える。
『高倉健インタヴューズ』(プレジデント社)では、「案内人殿に向かって、頭(かしら)、右!」と部下に向かって命令する台詞を、高倉自身が名台詞として挙げている。これは、台詞自体がいいのではなくて、兵隊が案内人の女性(秋吉久美子)に対して礼を尽くす場面の総体としてよいのだと語っていた。
兵隊たちと別れ、家路につこうとしていた秋吉がびっくりする。確かによいシーンだった。
雪の白と、軍服の黒の中に交じって、この案内人(「せがれの嫁だから無理をさせないでほしい」と花沢徳衛の舅が訴える前振りがある)だけが明るい赤を身にまとっている。その赤は、まるで庭先をいくように軽々と隊を導き、時に行軍を置いてきぼりにしそうになるのだった。
(つづく)
- 最近になって『八甲田山』を観なおしたところ、案内人の秋吉久美子は雪ん子のような三角の藁帽子をかぶり、赤ではなく紺の綿入れを着ていた。上野の勘違いでした。
