渡瀬は80年代に入り、『震える舌』『神様のくれた赤ん坊』といった印象的な小品に出演している。その中に『時代屋の女房』(1983年、森崎東監督)がある。
渡瀬が営む「時代屋」という古道具屋に、ふらりと現れた真弓(夏目雅子)が居つくようになる。そうして真弓は、時々姿をくらましてしまう。今も真弓は何度目かの家出中である。さて、彼女は戻って来るか否か、これが映画の縦糸だ。
そんな渡瀬の元に、女(朝丘雪路)が会いにきて、父の危篤を伝える。父は、この女が原因で家族を捨てた。父の入院先を訪ねた渡瀬に向かって女が言う。あんたのお父さんは、あんたのお母さんに対して薄情だった。そして、ここまできて、病室に入らないあんたも薄情だと。「だからいいのよ、男は。でなきゃダメだよ、男は」
男が薄情でいいかどうかは分からないが、ここには80年代の香りがある。
自民党の石破幹事長ほどこわもてではないが一重まぶたで目の細い僕に対して、あの頃祖母が言ったものだ、「男はそのほうがいい、心が読まれないから」と。
