朝、青荷温泉の宿の方にかんじきを履かせてもらった。それで、雪の上を歩いてみる。昨晩降ったばかりのやわらかい雪の上を歩くのだ。
「あれ、誰か落とした人がいる」という後方を歩く妻の声がした。振り返ると、妻が拾ったかんじきを片手に持っている。
ふと足元を見たら、僕の片方の足がかんじきを履いていなかった。追いかけてきた妻からかんじきを受け取るが、難しくて自分では履けない。焦っているうちに、もう片方も脱げてしまった。
「八甲田山死の彷徨」という言葉が浮かぶ。今や「お父さん犬」の吹き替えを務める北大路欣也が「天は我々を見放した」と呻吟する東宝映画の場面がよみがえった。
僕はパニックに陥りながら、深い雪の中から出ようとした。ドサドサ歩いて長靴の中に雪が入る。
凍傷にでもなったらどうしよう?!
しかし、あまりにサラサラな雪は、建物に戻って長靴を脱いでも溶けていないのであった。
さて、場所を移して今日の宿は日本海に面した不老ふ死温泉である。
東北は荒れ模様で、途中、樹氷を眼下に眺めようと予定していた八甲田ロープウェーは運休。
日本海はしけて、円谷プロの特撮のように粘り気のある波がうねっている。
黄金崎にある一軒宿、不老ふ死温泉の名物は海の岩場にある露天風呂である。
ところがこの露天風呂、海が荒れていることから女性専用風呂は閉鎖され、混浴のみのオープンとなった。ただし、本日については特別に専用バスタオルを借りての入浴可とのこと。
樹氷は山形を旅行した際に蔵王で見ている。八甲田ロープウェーは諦められても、この岩場露天風呂は諦められない。「入ったる!」と妻は鼻息荒く決意している。
夫婦でカウンターに行くと入浴用のバスタオルを二つ渡される。混浴では、男性もバスタオルを貸し出されるのだ。スッポンポンで入るものと覚悟していた僕が意外そうな顔でいると、カウンターの若い女性従業員が、「必要ありませんか?」と訊く。「いや、借ります、借ります」慌てて言う。
