会社員のカープ太郎さんは、仕事の出先から、遅れてドームにやって来ることになっている。
この日は、ジャイアンツの球団創設80周年を記念した「レジェンズデー」と銘打ち、かつてのエース桑田真澄が始球式を行った。クリーム色がかったオールドユニフォームを纏った桑田がマウンドへ。その背番号はもちろん18だ。キャッチャーがバッテリーを組んでいたチュウさんこと村田真一(現ジャイアンツ打撃コーチ)であるというのも嬉しい。
ブルペンで肩慣らしをしてきたらしい桑田の速球に、スタンドから歓声が上がった。
プレイボール。
カープ太郎さんがチケット手配した3塁側2階席の上段は、ホームでありながら敵方陣営である。周囲は赤いネームのユニフォームを着た人々が多くを占め、カープ応援歌の合唱と選手名を連呼する声があふれ返る。
身の危険こそ覚えないが、いささか居心地が悪い。
1回表が終了する頃、スーツ姿のカープ太郎さんが現れた。
「こっち、こっち」
僕はホッとして手を振った。どうやら、すれっからしの中年男は人恋しかったらしい。
「どーも、ども、今日は勝たせてもらいますよ」
とカープ太郎さんは言うなり、すぐさま周囲の応援歌の合唱に加わったのであった。
