僕が書いた最新長編小説『削り屋』が小学館文庫から刊行されました。
この本は、株式会社NCネットワークのWebサイト上で2012年10月〜2014年5月まで連載したものに大幅な加筆改稿したものです。
また、この加筆改稿によって、Web連載により発表した作品とは、著しくテイストが異なりました。
執筆の経緯(けいい)ですが、まず僕が毎週通っている整骨院から始まります。
整骨院の待合室の本棚に『バガボンド』が並んでいました。『バガボンド』は井上雅彦氏による青年漫画で、吉川英治著『宮本武蔵』を原作としています。
僕はこの漫画にハマってしまって、施術の予約時間よりも早く整骨院に行っては、読みふけっていたのです。
『バガボンド』は、原作に大きなアレンジが加えられていますが、僕も、自分なりの『宮本武蔵』が書けないものか、とだんだん思うようになりました。
その頃、NCネットワークという製造業を応援するサイトを運営する社長から、中小工場を舞台にした小説を書かないかという依頼がありました。彼は学生時代からの友人で、比較的自由にものを書かせてくれます。
社員2人を伴った彼と新橋のホルモン焼き屋で打ち合わせのために会って、僕は自分のプランを話しました。それは、武蔵に当たるケンカの強い主人公の若者が、旋盤(せんばん)の加工技術の腕を磨く中で、人間的に成長していく物語でした。
主人公の名前は「剣拳磨(つるぎ・けんま)」だと伝えると、彼は、「漫画みたいだな」と言って笑っていました。しかし僕は、この小説は、劇画タッチで描かれるものだと直感していたのです。