*月*日
満開もとうに過ぎる頃、近所に花見に出た。
妻と石神井川沿いの桜並木を目指すが、その途中にもそこここにソメイヨシノがあって驚く。花のない時期には桜だと気づかずにいるのである。
西武池袋線の練馬高野台駅近くから川に沿って歩く。
見事な枝ぶりを両岸から川面に差し伸べる光景は、さながら桜のトンネルである。
風の強い日で、盛大な花吹雪が降り注ぎ、川も桜色に染まる。花筏(はないかだ)だ。
橋から見下ろすと、遊歩道で少年が、帽子で舞い落ちる花びらを受けとめようとしている。その行為を飽(あ)かず繰り返す。
来年の春休みも、彼はここで一片(ひとひら)の花びらをすくっているだろうか? いや、彼はここでこうしていたことさえ覚えてはいないだろう。