都営大江戸線の築地市場(つきじしじょう)駅の改札を出ると、地下鉄構内ながら、すでに魚のにおいが漂っていた。いや、本当である。
A1出口から外に出ると、すぐに築地市場の正門で、中へと入ってみた。
今年11月に豊洲への移転が決まったことから、ぜひとも見納めに訪れておこうと思ったのである。
春分前の、冬の名残の冷たい雨が降る日だった。
雨なので、僕は長靴を履いている。長靴がこれほど似合う場所はないだろう。
しかし、傘は邪魔である。屋根があるところばかりではないので、どうしても傘を開くことになるのだが、細く入り組んだところでは遠慮してしまう。
なにしろ、そこは労働の現場で、ターレと呼ばれる人が立って運転する小型運搬車が走り回っている。
このターレにせよ、バイク、トラックも、場内をもんの凄いスピードで通り過ぎていくのだ。年間に20件の事故が発生するという。
真剣勝負の仕事場に勝手にのこのこ入っていって、ケガをしても、それは自己責任。あたりは、ピリピリした緊張感が漂っていて、怒られる感満載である。