場内の魚がし横丁は、本来は市場で働く人々が食事をしたり、買い物をしたりする生活の場所であったが、今や観光ルートと化している。
僕が場内に入ったのは朝の9時頃で、未明から働いている人たちが利用するピークは過ぎている。どこもカウンター1列のみの小さな店ばかりだが、この時間は観光客が長い列をつくっていた。今日は雨でこの状態で、晴れていれば1時間待ちはざらであるとか。
そして、列の横を、やはりターレが猛スピードで行き交う。
場内を歩いているのも、列に連なっているのも海外からの観光客が多いのを感じる。
いよいよ水産物部仲卸業者売場へと向かう。上空から見ると、扇形の屋根になっているあの場所である。
今、その屋根の上には、無数のゆりかもめの群れが、おこぼれを期待して待ち構えている。
そして、時折、いっせいに乱舞する。
ふと1羽が、雨の中を天高く、どこまでもどこまでも飛翔していった。
『ブレードランナー』のラストで、ロイ・バッティの手から逃れていった白い鳩のように。
水産物部仲卸業者売場の巨大空間には、1200軒の店がひしめき、迷路を形成している。
そこにはピカピカの鮮魚が並び、働く人々が忙し気に行き交い、やはり観光客がそれを覗き込んでいる。奥には、マグロの初競りのニュースで映るセリ場が見えた。
僕も邪魔するほうの側なのだけれど、きっと働いている人たちには迷惑なんだろうな、と感じてしまう。