ふじた:それでは今回もお話伺ってまいりましょう。本作を執筆なさったきっかけから教えていただけますか?
上野:『削り屋』の主人公が、歯科大に通っていて、歯を削ることに自信のある青年。『わたし、型屋の社長になります』の主人公が広告代理店での実務経験に自信を持つ女性。そして、町工場エンターテインメント小説の第3作目を執筆するにあたって、今度は何事にも自信を持てない女の子にしようというのは決めてました。「削り屋」「型屋」ときて、製造業でも何屋にしようか? と考えていた。そしたら、『週刊ニュースリーダー』という朝の情報番組を眺めてて、TOKIOのリーダーの城島茂さんがヘラ絞りの工場をリポートするコーナーがあったんです。面白い仕事だな、と引き込まれていたら、コーナーの最後に〔ヘラ絞りのパラボラアンテナをアンデス山脈に展開させて、ブラックホールを見る計画がある。〕というテロップが出たんです。それを見た途端、この話を書こうと決めました。つまり「絞り屋」で行こうと。
ふじた:なるほど。意外なところからヒントを得られたんですね。ヘラ絞りは、素材をヘラと呼ばれる道具で伸ばすっていうんでしょうか、変形させて形を作り上げる作業のようですね。実際に職人さんの話を伺う機会はあったのでしょうか?
ちなみに、この(前編)では、ふじた画伯はをまだ本作を読んでおりません。