前回に引き続き上野歩の書き下ろし小説『墨田区吾嬬町発ブラックホール行き』(小学館)について、読みどころを《上野亭かきあげ丼》の板長ことイラストレーター・ふじたかつゆき画伯によるインタビュー形式で紹介していきたいと思います。(前編)では本作を読んでいなかったインタビュアーのふじた画伯ですが……
上野:『墨田区吾嬬町発ブラックホール行き』読んでいただけましたか?
ふじた:はい、楽しませていただきました。『削り屋』『わたし、型屋の社長になります』とまた違った主人公像がありました。読む前の、こんな話かなって想像とは違いましたよ。
上野:どんな話を想像していましたか?
ふじた:まずタイトルからの印象ですよね。パラボラアンテナをつくる話であることは、上野さんが執筆中の時から聞いていたので知っていました。その挑戦に向かって物語全体が進んで行くんだろうな、と思っていたんですよ。もちろんそこも大きな山場なんですが、ブラックホールって言葉には隠喩というか、別の含みもあるんだなあと。
上野:それは、けっして明るい世界ばかりではないという意味でしょうか?
ふじた:あんまり言ってしまうとネタバレになるのが怖いのですが、主人公のひかりことモグちゃんは、失踪した父親の手がかりを求めて絞り屋(ヘラ絞り職人)になる。その自分の知らない過去を、ブラックホールのようにも感じたのではないかと思うんですよね。勝手な解釈なんですけども。
上野:あ、それは作者として新鮮な意見です。
ふじた:深読みしすぎでしたかね(笑)。ともあれ主軸になる主人公のルーツ探しの中でいろいろな事件が起こる。テレビ番組での『削り屋』の主人公・剣拳磨との対決とか、見せ場はほかにもいろいろあって、パラボラアンテナへの挑戦は、いってみれば枝葉のひとつって印象でした。
上野:全体的には、主人公の成長物語であり、青春小説です。