・なぜ鋳物だったか?
上野:分からないから調べる――そうですよね。僕も鋳物のことなんて、なにも分からないんで、取材先で勉強させてもらいました。
おとない:調べて、理解をして、さらにそれを作品に落とし込むのはとても大変な作業ですよね。上野さんは取材もご自身でお調べになって行かれているとか。そもそも鋳物を題材にしようと思ったきっかけはなんだったのですか?
上野:小学館の担当者さんに、「東京オリンピックに絡めてモノづくり小説を書いてみては」と勧められ、題材はなににしよう? と。担当者さんには、『東京五輪音頭』というオリンピック当時を舞台にしたモノクロ映画にも連れて行ってもらいました。そんなこんなで、国立競技場の聖火台に行き着いたんです。聖火台は鋳物ですからね。昭和のオリンピックと令和のオリンピックを、孫と祖父、ふたりの鋳物師(いもじ)の視点で描くことにしたんです。
おとない:「オリンピック」から鋳物に行き着いたんですね。本来ならば今年はオリンピックイヤーになるはずでしたが、新型コロナウイルスの影響で一変してしまいましたね。 このお話もどう展開していくのか、ドキドキしながら拝読しておりました。
上野:まさか、僕もオリンピックが延期するとは思いませんでしたからね……。コロナ禍で、どうしようか悩みました。
おとない:このお話にとって重要なキーワードですよね……。 コロナのこともきちんと取り入れられていて驚きました。
上野:オリンピックという世界的なイベントを描く以上、コロナという世界規模の災厄から逃れられませんよね。でも、暗い話にしたくなかったんです。
おとない:ルカさんも今まさに同じ時代を生きていて、この流れに呑み込まれまいと必死に闘っているのだなと、感じました。