練馬区の石神井公園近く(とはいっても公園までは歩いて20分ほどかかる)に住んで9年になる。
このさきずっと住むかどうか、そんなことはわからないけれど、ここでの暮らしがけっこう気にいっている。
まず畑があるのがいい。越してきた当初よりも、だいぶすくなくはなってきたけれど、駅からはなれたディープ練馬に歩いていけば、むかしからの農家然とした家と、ひろびろとした畑がある。
そうした畑には、たいてい無人スタンドがあって、すぐ眼のまえの土でとれたばかりの、おおきくて、みずみずしい、葉のみっしりとしたキャベツや白菜を置いているのだ。
どれでもひとつ100円である。消費税なんかはとらない。
スタンドにある、手づくりの貯金箱みたいな、ちっぽけな、ボール紙の筒に買ったぶんだけの100円玉を入れてやればいいのだ。
スタンドの向こうで、農作業をしているひとを見つけたなら、すかさず、
「大根ないの?」
ときいてみる。
すると、年に3回くらいしか笑わないような、陽と風にさらされて煮しめたような肌のいろになった老農夫が、「ああ」とか、「う」とか、みじかくぼそりとこたえたような、こたえなかったようなそぶりをみせて、大根畑のなかにわけいってゆく。そうして、大根を1本ひっこぬく。