かつて三島由紀夫は、「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」と書いています。
生意気なことを言うようですが――いいえ、ここはあえて生意気なことを言ってしまいましょう。
僕、上野歩のものをひとつ読んでいただくならば、ぜひとも『愛は午後』を読んでいただきたい。6月に文芸社から刊行される『愛は午後』は、僕の4冊めの単行本です。今後どれだけの本を出すか(出せるか)わかりませんが、『愛は午後』は、僕にとってひじょうに大きな位置をしめる1冊になると思っています。『愛は午後』は、血をわけた姉と弟のインセスト(近親相姦)を表現手段としてもちいた愛の物語です。
姉・かがりと弟・リンゴの家庭は、彼らが小学生のころから、その機能を失っています。