ことしの夏は、ほんとにほんとに暑かった――と、もはや過去形にしてしまうのは、とくに梅雨のなかった6〜7月にかけての猛暑が、まさに夏の本領発揮で、あとはオマケ感がつきまとっているからである。
その盛夏、僕はどうしてたかというと、もっぱら泳ぎにいってた。
炎天の昼日なか、マンションの8階の部屋を出てゆく男がいる。男は一見短パンのようだが、よく見ると黒い海パンをはき、素足にビーサンをひっかけている。上半身は、さすがに裸体をさらしていないが、Tシャツにパナマ帽、首からは早くもゴーグルをぶら下げている。そんなリゾートスタイルで、海も湖もない、まったくの内陸の練馬の町を、光化学スモッグのなか、ぺたぺたと2時間4百円の区民プールめざして歩いてゆく。