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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第51回『そのときコイツが欲しくなる』

挿絵  原稿を書いてるとき、海洋深層水塩飴というのをなめる。
「高知県室戸沖の水深約320メートルで取水された、自然界のミネラルや微量元素がバランスよくふくまれた飴」だと、袋の説明書きにある。
 なにやらありがたい感じがして、原稿を書くあいまに気分転換に口に放り込んでいたのだ。

 ところが、いつのころからか、机のまえにすわったとたん、なにをするでもなく、コイツを口に入れてしまうようになった。当然のごとく、なにはともあれ、まず飴である。
 そうなると、この飴を口に入れないことには、なにもはじまらなくなってしまった。
 あるいは、飴を放り込んだだけで、すべてが終わってしまうようになった。
 僕は机に向かってすわり、飴をなめながら、いきなり完結してしまっている。

 小学生のころ、土曜の夕飯の父のビールの肴は、焼き鳥ときまっていた。
 うちは家内工業の町工場で、母親も働いていた。夕飯は6時くらいからで、母は4時になると仕事をやめて、買物に行き、食事のしたくにかかる。

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