上野亭かきあげ丼 ホームページへ
 各店員のページへ: ふじたかつゆき ふじさわみえちー

ぴー吉 上野 歩 / イ 
第64回『男の部屋』・・・P2

挿絵  院長は、手にぶら下げていた売店のビニール袋をテーブルに置くと、なかから缶入りの『お〜いお茶』を取り出してすすめてくれた。
 僕は礼を言うと同時に鼻がむずむずしてきてポケットからハンカチを引っぱり出す。
「花粉症ですか?」と院長。体の症状にまつわることを言うと、やはりなんとなく診断しているような口調になる。
 僕は窓の向こうに広がる山裾に花粉をたっぷりとのせた杉の巨木があるのを眼にとらえた。しかし、「いいえ」とこたえる。花粉症ではない。ただ、温度差に敏感なのだ。外にくらべてこの部屋は暖房がきつ過ぎた。それで、くしゃみが出そうになったのだ。
 もぞもぞと上着を脱ぎ、ソファに乗っている院長のカーキ色の雑嚢の上に置いた。
「暑いですか?」ときかれ、「ええ」とこたえると、院長は立って行ってヒーターの温度を下げてくれる。
 ぷしゅりと『お〜いお茶』の缶をあけ、ひと口飲んで、ようやく人心地ついた僕は、室内を一渡り見まわした。
 アトリエのようだと思った部屋のなかには、ほかにもなにやら怪しげなものが所狭しと置かれているではないか。
「タバコを喫ってもいいですか?」
 と、知己を得たばかりの院長が言う。
 どうぞ、とこたえると、テーブルの上にふたつ置いてあったパイプのひとつを取り上げ、百円ライターで火をつけにかかった。
「タバコ喫みには肩身の狭い時代です」
「僕は30歳のときにやめました」
「いいことです」
「1日に3箱ほど喫っていたんですが」
「そうですか」

ページ操作マーク まえのページへ    ページ操作マーク つぎのページへ