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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第72回『ノスタルジア』

挿絵   町歩きが好きだけれど、そこには常に昔の東京の姿をさがし求めるというおぼろなテーマを持ってのぞんでいるように思うのだ。
 なにも昔がやたらと懐かしいとか、あの頃はよかった、といった強い気持ちがあってのことではない。いまの生活のほうがだんぜん便利で豊かだ。しかし、それと引き換えに失ってしまったものもある。そうした失われたものへのノスタルジアが僕を町歩きに誘うようだ。 僕の求める〈昔の東京〉は、僕が子どもだった時代よりも、さらにもうちょっと昔の東京である。
 半月のあいだに2度にわたって上野を訪ねる機会があった。一日は合羽橋の道具街である。
 学生の頃、上野で映画を見た帰りなどこのあたりをよく歩いた。上野〜浅草間の銀座線の運賃を浮かせようとしたのだ。浅草から先の都営地下鉄の定期券は持っていたから。
 そんなわけで合羽橋は懐かしい風景のひとつである。調理器具の専門店街である合羽橋もそうだけれど、上野〜浅草のあいだというのは小さな会社や問屋が建て込んでいるところだから、休日は人の姿もまばらだし、浅草通りも車の数が少ない。なんとなく色あせた、埃っぽい景色のなかを歩いていると、懐かしいような、もの悲しいような気持ちになった。

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