父親が、「行こうよー」と言うので、田村正和主演の舞台公演『新・乾いて候 そなたもおなじ野の花か』を観に行くことになった。
いい齢の父子が、そろって田村正和を観に行くというのは、なんとなくこそばゆいというか、奇妙な風景である。
だから、「前売り買ったぞー」と父が電話で言ってきてからも、「なにしろ『そなたもおなじ野の花か』だもんな……」と、時折ひとりつぶやいては戸惑っていたものだ。
それが、地下鉄の乗りかえ通路に、背中までの黒髪に憂いをふくんだ横顔を見せた立ち姿の田村正和のポスターがあらわれるようになると、だんだんとたのしみになっていった。そのポスターのコピーにある〔七月、田村正和に酔いしれる。〕という気分になってきたのである。