薄暗い蛍光灯に照らされた、むきだしの、古く汚れたコンクリート壁は、なにか防空壕のようなものを連想させ、かび臭いようなすえた空気のなか、いつも水たまりが消えない短いホームを歩き、階段を上がって外に出ると、そこは森のなかである。
地下駅の入口は、大正時代につくられたというピラミッド型の段状屋根が乗った凝った建築物で、構内との裏腹さにはっとさせられるが、とにかく古いのと長く手が加えられていないのとで、よくよく見ると軒には酸性雨で溶けた石の氷柱(つらら)が下がっていたりする。
この地下鉄入り口をはじめ一帯には古式蒼然とした、けれど趣きのある建物が多い。朝露に濡れた桜の木のにおいのなか、ギリシャ神殿のような国会図書館のまえを通り、森の向こうにたたずむ国立博物館表慶館の壮麗な大ドームを背にして、僕は寛永寺近くにある広告会社の事務所に向かった。僕は20代半ば過ぎで、それが転々としたいくつめかの職場だった。
