スカルノ・ハッタ国際空港に降りたった時にはもう夜だった。
暗くて空港のまわりもよく見えないが、なにやらはやくもねっとりとしたあやしい空気に包まれている。
ここにはトランジットのため立ち寄ったので、空港内でウロウロするだけなのだ。皆、免税店を見て時間をつぶしたり、トイレで歯を磨いたりしている。私たちも、おどろおどろしいヘビのハクセイなんかを売っている店をのぞいては、ほーヘーいっていたが、すぐに歩き回るのにもあきて待ち合い室に向った。
(余談だけれど、バリ島へは恋人との2人旅。この紀行の中では仮に「おちーさん」と呼ぶことにします。)
しかしジャワというと、なんだか悪漢宇宙人の名前みたいだ。ひどい言い掛かりですまないが、おっかないからサッサと出発してほしいというのが正直な所。バックパックをギュッとにぎりしめているうちにフライト時間になる。
スカルノ・ハッタ国際空港からバリ島のング・ライ空港にはほんの2時間くらいだ。 そのあいだ、心の中で念仏のように注意事項をくりかえす。
ギャンブル賭博のさそいにのらない、気安く話し掛けてくる人はシンヨウしない、両替ではおつりに誤差が出る「しかけ電卓」に気をつけるベシ。ジュゲムジュゲム...
...OKだ何の問題もない!
飛行機はドスンと着陸。いよいよバリ島だ。
鬼の形相で席を立つ。ガルーダインドネシア航空は機内で入国手続きをしてくれるので、荷物を預けていない我々のようなバックパックスタイルだと、もうスルーっと外まで出れてしまう。ベルトコンベアの前でイライラと荷物待ちをしている輩をチラリと見てクスリと笑ってみる。
「リョウガエ〜、コッチネ〜」
賑やかな声にハッとわれにかえり前方を見ると、両替屋がズラリと並んでいる。
ハハーん、これがネットに書いてあった空港内の両替屋ってやつか、たしか「ここはレートが悪いので必要最低限だけ両替え」だ。3千円も替えりゃ安心だろう。
どの両替え屋がいいかな、と店の様子をうかがっていると、いかにも人のよさそうな、眼鏡をかけたオバチャンの店がある。雷波少年に出てくるフナコみたいな顔をしている。うむ、まあいいじゃろう。この人でイコ。
旅行時のレートは1円=81ルピアくらい。3千円を渡すと24万3千ルピアの計算だ。分かってはいたことだけれど、咄嗟に暗算できずイチイチ計算機で確認する。ああ、もっとまじめに数学やっときゃよかった。
どうやらフナコの提示する金額に間違いは無いようなので、お願いしますと伝える。
するとフナコ
「アト5ヒャクエンクダサイ」
と、なにやらわからん事をいいだした。よーくきいていると、どうやら、あと5百円でちょうどキリよく両替できるぞ、といっているらしい。突然んなこといわれてもこまるが、おちーさんがたまたま五百円玉を持っていた。それをフナコに渡すと、
「ゴヒャクエンダマダイスキネー!」
と顔を真っ赤にしてヨロコンでいる。ああ、そんなうれしいんだ、バリのオバチャンはかわいいなあ。こちらも笑顔でサヨナラと別れをつげた。