入学式のシーズンだね。
　あちしも小学校の入学式の時には、なんか知らないけど、妙に興奮してうれしかったもんだ。
　こんなあちしにだって純真な頃があったのさ。
　何日も前からランドセルやら新しい服やら靴やらを眺めてはむふむふしていたものよ。靴下だって真っ白のレースのフリフリ付きだぜい。
　んで、何の根拠もない希望に満ち溢れて臨んだ入学式。校長先生の話をきいて、あちしは愕然としたね。にこにこした満面の笑顔でこうのたもうた。
「みなさんは、これからはよく遊び、と同時によく学んでください」
　が〜ん！　小学校とはなんとむずかしいことをしなくてはならないところなんだろう。新しい靴もランドセルもいらんから、幸せだった幼稚園に戻りたい……。
　あちしはしょぼくれて、付き添いにきてた母親に言ったものだ。
「学校にはついていけないかもしれない……」
　絶句している母親に向かってさらにつづけた。
「どうやったら校長先生が言ったように、遊びながら勉強ができるんだかわからないよ。かくれんぼしながら算数やったり、なわとびしながら漢字を覚えたり、同時にやるなんてできない……」
　ああ、なんとスカタンな子どもだろう！
　しかーし、それを聞いて母親は言ったね。
「あんたは、えらい！よく校長先生の話を聞いていたね。他の子はよそ見をしたり隣の子をつついたりしてたのに」
　いまから思えば、アホな子どもを持った母親が、せいいっぱい慰めてくれたのかもしれない。けど、そのあと親せきじゅうに電話しまくって、「ウチの子は、１年生になりたてのほやほやなのに、校長先生の話をここまで真剣に聞いていた」と自慢気に話していたところをみると……。やはり、スカタンな子どもはスカタンな親から生まれるものらしい。