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ぴー吉 上野 歩 / イ  第102回『東京タワーの真下で味わう豆腐懐石』・・・P3

挿絵 さいしょにビールでのどを潤し、料理がはじまった。お酒は、竹の筒に入れられた冷酒にする。
 きょうは、お昼の御膳の〈松〉のコースを頼んでいた。
 品書きはつぎの通り。

先附   新じゅん菜 浅草海苔
八寸   鱧寿し 豆腐味噌漬とんぶり 百合根胡麻和え 穴子玉子焼
進肴   あげ田楽
  どんこ椎茸 鮎並 花柚子
造り   本日の港より
(※上野注:この日はマグロとヒラメだった)
鍋仕立   豆水とうふ
揚物   夏野菜天ぷら
(※上野注:この日はソラ豆とナスとコシアブラだった)
食事   深川飯 香の物
甘味  
  白玉小豆あん


 お昼の御膳は、〈竹〉(=5,500エン)と〈松〉(=6,500エン)がある。〈松〉にしたのは、和食の華であるところの椀があるからだ。〈竹〉のほうは、椀のかわりに煮物(飛龍頭:ひろうす)になる。豆腐懐石なのだから、がんもどきの煮物というのも一考だが、店内でがんもどきをおみやげに販売しているので、それを買って帰って味見することにした。
 それから、〈竹〉のほうには天ぷらが付かない。さいしょは、お昼のコースだし、天ぷらはなくてもじゅうぶんかな、と思ったけれど、メインが豆水とうふ(吟醸とうふと呼ばれるていねいにつくった豆腐を、豆乳とだし汁で煮込んだお店の名物)なので、余裕をもってお腹におさまった。高級食材といわれるコシアブラの天ぷらを、この日はじめて食べた。こういってはなんだが、のり塩味のポテトチップスにどこか似ている。いや、悪く言っているつもりはない。あえて例えるなら、という意味である。
 梅雨時の、しっとりとした湿り気を含んだ空気のなかにたたずむマツ、サルスベリ、イロハモミジの日本庭園を眺めつつ、ゆっくりと豆腐懐石を食するのは、極上の時間だった。八寸を運んできた桶を飾るテッセンは庭に咲いていたものだという。上品な紫色の花が、室内と庭園との空気をふたたびひとつにする。
 窓の外には、野鳥やチョウがやってくる。中庭の中央にはあずま屋ふうのグリルがあって、そこで職人さんがあげ田楽を焼いている。お店のひとが焼きたての熱々の料理を持って、客室とのあいだを忙しげに往き来している。どの部屋からも庭が眺められるから、そこは言ってみれば舞台である。働いているひとたちも見られることを意識しているのか、立ち居振る舞いが凛としている。
 食後は、滝や、水車のまわる小川、ニシキゴイの泳ぐ池のある広い庭園を歩き、例の蔵づくりのバーに入る。和風の内装に荘厳華麗なビクトリア調家具がシックになじんでいる。大正期にタイムスリップしたような気分に浸りながら、ふたたびバーの窓から庭を眺め、大好きなアイラ島産モルトのアードベッグを飲んだ。
 あまりにも気に入ってしまったので、この庭のせみしぐれも聞きたくなった。だから帰りには、フロントで翌月の席の予約を入れてしまった。

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