しかし、逆にそれは、子どものチョコレートによせる憧れをいっそう強める結果となってしまった。
子供たちにとって(すくなくとも当時の)は、チョコは夢と憧れそのものだった。
たまにマーブルチョコレートの筒型の箱が1本まるごと与えられたとしよう。
フタを開けると、
ぽんッ!
という小気味よい音がする。
この音を聞くだけで、ちいさなからだいっぱいに幸福感が広がる。
筒のなかには、7色の糖衣に彩られたボタン形のチョコレートが詰まっている。
僕は、それを1粒ずつ取り出しては、口に入れ、まず、チョコをコーティングしている糖衣のみを舌で舐めとろうと試みる。
最初は、まわりの色だけがはげ落ちて、白い糖衣がむき出しになる。それを舌にのせ、鏡を覗き込み、「べー」をして現状を確認する。
大いに満足した僕は、チョコをつぶさないようにして、歯と舌で糖衣の殻のみをはぎ取らんとする。ヘタをすると、チョコごと糖衣を噛み砕いてしまうことになる。
だが、それはゆるされないことなのだ。めったに食すことのできない貴重なチョコである、時間をかけて、たんねんに味わう必要があるのだ。
