温泉宿に着くと、すぐにはお風呂に入らず、すこし近所を散策するのが僕のやり方だ。この時、できればビールだの、氷(ウイスキーはすでに出発時、自宅近くのディスカウント酒屋で調達済みである。純和風温泉に合わせて国産のシングルモルトをチョイスしている)だの、持ち込み用のお酒も仕入れておく。
宿にもどると、いよいよ温泉に浸かる。温泉にくると、僕は露天風呂一辺倒である。窓もない自宅マンションの風呂では味わえない開放感を謳歌する。
湯上りに部屋でビールを飲む。あるいはこの瞬間が、いちばん心とからだがほぐれる瞬間かもしれない。
そして、今回のお宿では、部屋の冷蔵庫で冷えている小ビンのビールがサービスだという。さらに冷蔵庫には、ジュース、ペットボトルのミネラルウォーターが入っていて、これウェルカムドリンクと思いきや、飲んだら翌朝また補充してくれるのだった。
小ビンというのが、またうれしいではないか。王冠を、こんこんと意味もなく栓抜きでたたいてみたりする。
泡がふんわりと立つように、3度に分けてグラスにそそぐと一気にあおる。ごくごくとのどが鳴った。
「うンまい!」
摺り上げの雪見障子から見える坪庭のろう梅が黄色い花をつけている。その向こうを伊東線が時々行き交い、小鉄(ちょいとだけ鉄道好き)の心をくすぐる。
2杯目のビールをつぐ。
テレビなんかはつけない。不況も、仕事の〆切りもすべて忘れる。たのしいことだけを考える。オフに大型補強したヤンキースの開幕スタメンや、近々手に入れようと思っている革靴のことなんかを。そして、なにより今宵の夕食の膳のことを。
