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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第144回 ミシュラン候補の店・・・P3

挿絵  グラスで頼んだ白ワインはドライなイタリア。
 2皿めはオーシャントラウトのマリネである。タスマニア産の本マスは、スモークされておらず、脂がのっている。高級ミカン「せとか」がアクセントだ。
 青く若い香りのするオリーブ油につけて味わうパンの、まわりがほどよくかりっとし、なかのもちもちとしておいしいこと。

 つづいて、じゅーじゅーという音とともにタジン鍋が現れる。三角帽子のフタをあけると、部屋じゅうがハーブの香りで満ちる。
 タジン鍋からサービスしてもらい、盛りつけられた一皿が目の前に置かれる。ローズマリー、タイム、イタリアンパセリなどの香りを移したアカザエビのグリルである。スパイスを混ぜ込んだカニのソースが彩っている。もちろん、このソースもパンで拭って口に運ぶ。
 ソースのほかに、レモン入りの塩を皿に添えてくれたので、ぷりぷりとしたエビの身肉を両方で味わう。

 4皿めはグリーンアスパラのボッシェ。茹でたアスパラを卵黄のソースで味わう、季節を感じさせる美しい一皿だ。こちらのソースもパンにつけて食べる。おろしたフルーツが混ぜ込まれており、ほのかに甘く、パンで食べるとデザートのようだった。
 悪くはないが、アスパラは、皿に添えられたピスタチオとグリーンペッパーの塩で食べたり、ソースに塩を加えたりした。

 ワインをフランスの赤にして、いよいよメインはイベリコ豚の炭火焼である。これが、気取って皿にちょこんではなく、大きな塊でたっぷりくるのがいい。かりっと香ばしくグリルした肉にナイフを入れると現れる、桜色のグラデーションの美しいこと。大きく切って、たっぷり口に含むと、やわらかく、ジューシーで脂がちっともしつこくない。付け合せのジャガイモが熱々のほくほくである。
 開け放たれた個室から回廊をはさんで向こう、壁一面のピクチャーウインドー越しに中庭の樹々の若葉が揺れている。
 デザートのパフェと大きめのカップでくるダージリンを満喫し、お店のひとに、「ミシュランいけるかもしれませんね」と言ったら、「じつは」と微笑む。目標なのだという。
 芝の東京タワー下にある「とうふ屋うかい」では、豆腐料理とおとなのテーマパークとでもいった食の空間を満喫した。あちらは★1つを獲得しているが、その実績からも、こちらGRILうかいの演出と料理、じゅうぶん射程内といえるのでは。

 さて、食後は三菱一号美術館へ。日本初のオフィスビルの復元だが、まず、その広さ、大きさに驚く。明治の洋館というと、一般参観した赤坂の迎賓館の、意外なコンパクト感が印象に強い。コンドルの弟子である片山東熊の手による宮廷建築だが、実寸はともかく、おなじ明治の建築でもコンドル自身が設計した湯島の岩崎邸やこの三菱一号館のほうが天井が高く感じられる。
 三菱一号美術館の開館記念展は「マネとモダン・パリ」。
 ウエノの美術鑑賞は、館内をふらふらと歩いて、気に入った絵をいくつか見つけることだ。
 この日は、ポール・シニャックという画家の『ジュヌヴィリエ街道』というパリ郊外を描いた油彩に、生まれ育った荒川方水路越しに見る工場街の煙突の風景が重なった。
 また、エドゥアール・マネの『燕』は、湿った草原の風の気配が伝わるようで、やはり心に残った。
 一杯機嫌でGRILうかいを出た時には、「モネだっけ、マネだっけ」なんて感じだったのだけれど。

<食事したお店>
GRILうかい
電話:03−5221−5252
住所:東京都千代田区丸の内2−6−1 丸の内パークビルディング 丸の内ブリックスクエア2F
http://www.grill-ukai.jp/

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