島前を構成する3島のひとつ、西ノ島に到着。
山がちの西ノ島でも、もっとも眺望の良い赤尾展望所から、国賀海岸(くにがかいがん)を臨む。
青い海を背景に、自然が造形したごつごつとした侵食岩が陳列された奇景である。崖に穿たれた洞門は海天橋と呼ばれている。
浦郷港近くの食堂で、サザエとイカの昼食を食べ、島前の2つ目の島、知夫里島(ちぶりじま)に向かう。こんどは漁船ほどの大きさのボートである。
30分ほど、ひたすら真っすぐに波を切って進む。
デッキで夏の陽差しを浴び、加山雄三気分に浸っていたら、ポロシャツから伸びた腕が真っ黒に焼けてしまった。
上陸した知夫里島では、この島の最高峰、赤禿山(あかはげやま)に登る。
土木事業は隠岐島の基幹産業であるため、隅々まで道路の舗装が行き渡っている。マイクロバスで頂上を目指すのだが、途中、その舗装道路がフンだらけである。
やがて、その落とし主が姿を現した。たくさんの黒毛和牛が放牧されているのだ。
鉄分の多い真っ赤な土で、木が生えないというのが赤禿山の名前の由来だが、緑の牧草に覆われ、それを牛たちがのんびりと食(は)んでいる。
牛たちは道路上にも立ち止まり、バスがよっぽど接近しないと動こうとしない。ぶつかるのではないかと、乗っていて何度かハラハラしたものだ。
放牧されている牛はみな牝で、種牛はほかで飼われているそうだ。生まれた仔牛は神戸に買われて行き、そこで松阪牛として育てられる。
赤禿山の展望台から島前の360度のパノラマを眺める。
この空気、この眺め、ぜひとも持ち帰りたい! だが、大きすぎて、練馬のマンションの我が家には入りきれない。
遥か遠く、1頭だけ離れた所にいる牛が、青い夏空に向けて霧笛のように「ボオ〜」と鳴いた。
展望台の四方に設置された双眼鏡がコイン投入式のものでなく、無料であることにも感動を覚えた。