・3日め
昨日は、島前3つ目の島、中ノ島の観光ホテルに宿泊した。オーシャンビューの部屋からは、到着した夕刻に、郵便船がやって来るのが見え、今朝もふたたびやってきた。島の大事な通信のやり取りを担っているのだろう。
昨夜は岩ガキと生ウニを味わった。
今日は、隠岐最後の観光である。
中ノ島の菱浦港から、今度は高速船でふたたび島後へと渡る。
フェリーだと1時間以上かかったところが、40分ほどで西郷港に到着した。
まずは隠岐国一ノ宮の水若酢神社を参拝。ここの本殿も、「出雲大社、伊勢神宮、春日大社からいいとこ取り」の隠岐造である。
原始林のなかにたたずむ、遠い惑星からやってきた巨人のような乳房杉(島根県指定天然記念物で、樹齢800年とも言われる)を仰ぎ見た後、隠岐最古の木造住宅、佐々木家を訪れる。
崖上から木々の間に、屋根の杉皮を押さえるために石が置かれた家が見えた。そこが代々庄屋を務めてきた佐々木家住宅で、登録有形文化財として公開されている。
涼しい風が吹き抜ける座敷で、押し寿司、のり巻き、ゼンマイ、ドンコ、フキなどの煮物、そうめんといった素朴なお昼を頂く。
シコシコとした歯ごたえの甘辛い煮付けに、「何ですか?」と家の方に尋ねると、「ベコです」との応え。
それで、「ああ……」と思った。ベコ→牛→ウミウシ→アメフラシ! これはアメフラシの煮つけなのだ!!
僕はあのナメクジのような形状を思い浮かべたが、少しも拒否反応はなかった。まったくもって旧家の座敷で食べるのにふさわしい郷土料理だったのだ。
隠岐空港に行くと、多くの島の方が集まっていた。同じ便で、合宿に来ていた八角部屋の力士らも帰京するのだ。その見送りである。
そういえば、さっき西郷港近くの特産センターを覗いたら、隠岐の海関がたくさんお土産を買い込んでいたっけ。
鬢付けの甘い香りが空港の出発ロビーに漂うと、見送りの人々から歓声が上がった。
島の旅は分かりやすい。島に渡ってきて、島を去る。そこにひときわの寂しさと、潔さがある。
良い思い出をだんだんだんだん(ありがとう)。
(『隠岐島』おわり)